女に騙され、ネカマに貢ぎ、風俗嬢に恋をする。そんな漢の心の内に自ら向き合い、或いは薬にも毒にもならない駄文をお届けするエッセイ。
どうにも昔っから東海道新幹線というものだけが嫌いで、何とかして関西への移動を他のものに置き換えられないかと悩んでいた。
ふと思い立って飛行機を調べてみると、伊丹から羽田に向かう便が新幹線より安いじゃないか、これはシメたものよと思い、帰りの予定を変更した。
元々海外旅行が趣味だったもので、このご時世で海外に行かないものだから飛行機なんてどのくらい久しぶりだったろうか。
特に関西方面からの飛行機なんてのは数年ぶりなもんで、自分の座席からは見事な赤富士。この山の色合いとはなんとも妖艶に色めいた赤色をしている。
日本で最も妖艶な赤色が、この赤富士だとしたら、私のなかで最も妖艶な赤色は、忘れることはないだろう、大阪は飛田の赤色だ。
飛田、正式には飛田新地と言われる街は、大阪にある日本最大級かつ、日本唯一といっても過言ではない、遊郭の在りし日を思い起こさせる風俗街だ。
この飛田、一番の特徴は店先に女の子が座っており、どの子と遊ぶかを直接見て決められるということだ。そしてその女の子は誰もが皆可愛く、或いは美人で、まず普通の人は彼女や恋人になど出来ない高嶺の花だ。
そんな女の子達が数十軒立ち並ぶ店先で、私を見て笑顔で声かけや手招きなどアピールをしている。あまりにもその可愛さに耐性が無さすぎた自分は、同じ通りを4周してやっと決めた、サラッとしたロングヘアが美しい彼女と遊ぶことにした。
飛田新地では、"本番"と呼ばれている性行為を提供するものだ(建前上は料亭の店員と客の自由恋愛である)。人生苦節20年、私は自分には到底釣り合わないだろう同い年の女性で大人の階段を登ることになった。
2人で会話をしながら部屋に入る。部屋は6畳くらいのシンプルなもので、煎餅布団と端っこにお菓子が載ったちゃぶ台が置いてある。
このちゃぶ台には時間と料金の表があり、ここでお金を払うことになる。
私の"初めて"のために諭吉さんが2人と英世さん1人が財布から消える。彼らの尊い犠牲は旅行後にバイトで取り戻すことにしよう。支払いが終わった後、いよいよ彼女と"本番"をすることになる。私が布団に寝っ転がり、彼女がライトを暗くして同衾してあら、夢のような時間が始まる。
残念ながら、その時の詳細は今の私の力量では筆に起こすことができない(筆は下ろされたが)。
ただ一つ覚えているのは、彼女と初めて繋がる時、今にも消えそうな、心許ない暖色ライトに照らされた、彼女のあの妖艶な恍惚とした笑顔だけだ。───
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